6月だけど雪がたんまりある。
地元の人が口をそろえて「こんな6月見たことない」という。
過去にも一度、6月にスノーボードをしたことがあった。たしかおととしの6月2日。ただその時は、かすかな雪を使って遊んだ程度だった。今年はその時とは比べ物にならない。とにかく雪がある。
雪もあるけど日差しもある。毎日毎日強い日差しが山々を照らす。草木は力をつけ、雪の中に大きなツリーホールを作り、新緑をせっせとこしらえる。だけど雪はなくならない。今の雪には芯がある。とてもかたい。だからまだある。
新緑と残雪との見事なコントラスト。地元民が6月に「見たことがない」と言ったのは、このコントラストのことなのだと、後で気が付いた。
中井とは前の週も一緒に羊蹄山に登った。その時はマサオミさん(原田)、ウエさん(植村能成)、みの君(見野雄祐)を加えた5人パーティー。今回は僕と中井のみ。当たり前だけど二人きりで滑る場合、お互いのやりたい事に、より耳を傾けるようになる。
車に乗り込む前に家でコーヒーを飲みながら、今日のプランを話し合う。
その結果、先週の羊蹄山のように長い距離をハイクアップするのではなく、どこか近場でジャンプしたりして、まったりと遊ぼう、ということになった。
でもそんな朝の計画が、まったりどころかむしろ真逆に進行していく。これがスノーボードの面白いところ。
恐怖!動くログレールに容赦なくやられる。
山に到着し、道路にほど近い沢の中に入っていった。
まずは滑ってみる。雪は固く、よく見ると汚い。ジャンプする気が自然と失せてきた。しばらくして中井が近くにあったログを指差して、
「かずや君あれやっちゃいなよ」と言ってきた。
確かにアプローチこそ短いが、少し雪を盛るだけですぐに乗れそうなログレールがある。これはやるしかない。やってみるか。ただしこのレールが、今までの穏やかな空気を一掃させる曲者ログだった。
基本的には面白い。ただ先へ進むとシーソーのようにレールが沈んでいく。
アプローチもあまりとれず、乗ってる場所が沈むので、オーリーアウトがとても困難。ボードも言う事を聞かない、そして表面のデコボコとシーソーの反動が、予期せぬ方向へ体を飛ばす。隣には大きなツリーホール。よく見ると折れた丸太が着地でスタンバッている。
レールに乗ると、何とも言えない無重力感が伝わる。
けれども喰らいやすい。3回に1回くらい喰らう。結局、僕はレールの横にあるツリーホールに吸い込まれクラッシュし、中井もログにエッジが引っ掛かり、先端に向かって男前にダイブしていった。
左:Kazuya、右下:Nakai この後二人とも、激しく喰らっている。
「オレ写真撮るよ」
沈むログレールのすぐ近くに、妙な形をした1本の白樺の木が見えた。真横から見ると根元が急激にそそり立っている。
「雪を敷いたらジャンプの発射台になるかも?」滑るイメージが少し沸いた。せっかくだから実行してみたい。ログレールはとっくにやめ、近くの沢でまったり遊んでいる中井のところに駆けつけ、白樺ジャンプにトライする事を伝えた。
「オレ写真撮るよ」。
中井はアンティークからトイカメラまで色々なカメラを持っていて、羊蹄山ライドのときも写真を撮ることを楽しんでいた。僕はすぐさま自分のSONYを彼に手渡し、白樺を使って飛んでみる事にした
ブヨ→フラット着地→温泉
白樺の付け根に雪を盛る作業は、ものの10分で終わった。
アプローチでスピードはいらないが、早く準備してアプローチした方がいい。なぜなら少しじっとしているだけで、大量のブヨが寄ってくる。それはカメラを撮る中井も同じこと。
「沈むレールほど痛々しい結末にはならないだろう。」
僕はそう自分を悟し、あまり深く考えず、白樺の幹を発射台にして、どうみても斜度のない着地へジャンプした。
中井は僕がジャンプするたびに撮影アングルを変え、カメラの設定まで変えてくれた。10回まではいかないが、結構トライした。
中井とはこの2日後も一緒に滑ったけど、その日も波瀾万丈だったのでまた別の機に。