地元民もスノーボーダーも待ち焦がれていた整骨院
「鈴木大ちゃんが倶知安で整骨院を始めた。」
それを聞き実際に乗横整骨院を訪ねてみた。場所は北海道ニセコリゾートのふもと町、倶知安町の住宅街の中。院内に入ると知り合いのスノーボーダーが手厚い治療を受けていた。その後も知人が続々と、大ちゃんのケアを求めて押し寄せてくる。
後日、自分もシーズン中に痛めた箇所を、実際に診てもらおうと朝から院内にいると、今度は町内のおばちゃん達がひっきりなしにやってくる。車の荷物を取ろうと外へ出ると、またもや別のおばちゃんが整骨院の前でモゾモゾしている。
「おばちゃんどうしたの?」と聞くと、ずいぶん前に痛めたぎっくり腰で、最近どうにもならないとのこと。「先生いるから、中に入りなよ」それでも躊躇しているおばちゃんをたしなめ、先生にバトンタッチ。数時間後、診療を終えたおばちゃんに話を聞くと「いやーよかったわー」を繰り返している。
久々にニセコを訪れた自分は、客観的に乗横整骨院のことを考えてみた。
3月開業したばかりのホヤホヤの整骨院に集まるスノーボーダー達は、単に大ちゃんを応援するためだけに来ているのではなく、彼の施す治療を心の底から望んでいる。
それだけでなく、今までは国道を越えないと無かった整骨院が、この界隈に開業したことで、周囲の地元民か噂を聞きつけ続々とやってくる。
スノーボーダーだけでなく、地元住民も待っていた、できるべくしてできた整骨院なのだと痛烈に感じた。
ゴリゴリのライダーとしてのキャリア
鈴木大祐は今から10年ほど前、ROSSIGNOLやTWOFORONEといった、当時絶大なる知名度を誇っていたブランドのメインライダーとして、ムービーシューティングを精力的に行っていた。
主な出演作は「ING PROJECT」。現在の「CAR DANCHI」クルーがストリートレールをヒットし、山口睦夫が今見ても度肝を抜かされる超絶パートを残した、かの伝説的ビデオプロダクションだ。
「ING PROJECT」の代表作である「ROOM」で大祐はオープニングパートを、翌年の「GONG」ではラストパート(トリ)を獲得している。
作品の中で、当時一緒に動いていた山口睦夫氏は大祐のことをこう表現している。
「人一倍プッシュし、トライする数が人一倍多い。
その分やられ方も半端ないが、最後は絶対に立ってくる。それがダイスケのスタイル」
その表現通り、大介はパウダージャンプで全方向720やスイッチからの低回転スピンを巧みに繰り出し、ストリートでは目を背けたくなるようなクラッシュを喰らっても、心折れず最終的にはレールを男前のスタイルで抜き切る。10年経った今でもまるで遜色の無い、イカれたフッテージを残していた。
転機となる2度の大怪我
順風満帆にライダー活動を行っていた大祐に、不慮の事故が幾度と訪れた。
「GONG」をリリースした翌年の夏、遠征先のニュージーランドで台形レールから落下し、首の骨を骨折。さらにはその後も、立木に衝突して大腿骨を骨折するなど、活字を読むだけでも目を背けたくなるような大怪我だ。
しばらくはスノーボードなど絶対にできない大惨事を経験した当時の彼の心境は、自分にはとうてい想像できないが、それがスノーボードを辞めるには十分すぎるきっかけであることは明らかだと思った。
ところが信じられないことに、1シーズンを丸々棒に振った年は無く、リハビリを重ねながらもスケートやサーフィンで横乗りを続けて、雪山にも足を運んでいた。
同時に彼は札幌市内の整形外科で6年間働きながら、専門学校に3年通った。
体の回復を見ながら、雪山にもカムバック。ライディングスタイルはかつてのようなジャンプ、レールが主でなく、パウダーライド、ターン、バックカントリーへと向かっていった。
そうして柔道整復師の資格を取得し、一年以上かけて倶知安界隈の物件探しに奔走し、この春、念願の乗横整骨院をオープンさせた。
「自身の怪我が、整骨院を開業するきっかけになったか」
大変失礼極まりない質問を、院内で彼に投げてみた。
「もちろんある」
一言そう話すと、彼は当時の自分が骨折した時のレントゲン写真を何枚も見せてくれた。その後やってきた知人のスノーボーダーに、笑顔で治療やアドバイスを施す。心が強く広い、尊敬すべき院長なのだと思った。
充実の設備。でも基本は「自分の手で治療したい」
乗横整骨院の中を見渡すと、あちこちに治療を手助けする機械が置いてある。下半身のむくみをとる「メドマー」と呼ばれる靴下型の機械、体を正しいポジションに戻すための黄色いけん引機、電気治療のパッドとそのコントロールボックス
、温泉にたまに置いてあるようなローラーマシーン。どうやらこの4つの機械が、柔道整復師の中で主流となる治療設備らしく、多くの整骨院では患者への治療をこの機械をメインに使用しながら施すのだと言う。
「整骨院によっては、手よりも機械を長く使って患者に治療する。ただ俺は最終的に自分の手でしっかりケアしていきたい」
大ちゃんはそう話した。確かに、自分の経験の中で整骨院には何度か通ったことがあるが、まず症状を聞かれ、それに対した助言をもらった後、数個の機械でマッサージされて終わり。ということが何度かあった。
乗横整骨院で自分はこの充実の設備を一通り体験した後、待っていたのは大ちゃんによる、手厚いケア。著者個人的には治療の中で、10年前にジャンプのフラット着地で痛めた腰を思い出させられ、最近ではパソコンでの長時間作業からくる上半身の痛烈なコリを改善してもらい、お世辞でなく体がすっきり回復して院を出ることが出来た。
「横乗りをずっと続けていきたい」
冒頭でも記述した、鈴木大祐の整骨院開業の動機。横乗りに費やす時間をもっと作りたい。その言葉の通り、大ちゃんはどんなに忙しくても、朝イチのスキー場に出かけ、スノーボードを楽しみ、時にスケートボードで坂を下る。最近ではジャンプトリックも解禁したらしく、一緒に滑った時もパークでFS360やBS360と真剣に向き合っていた。それでも昼には必ず整骨院に戻り、診療を心待ちにする患者さんと笑顔で向き合う。
スノーボードと稼業の両立。時間を効率よく使うタフな院長さん。
「まだまだこれから」と本人は言うが、愛とバイタリティに満ちあふれたこの最高に素敵な院長さんを、陰ながら末永く応援していきたい。
〒044-0055 北海道虻田郡倶知安町北5条西1丁目1-53
TEL 0136-55-8554