中井孝治の軌跡
ムービースターTAKAHARU NAKAI
中井孝治は12歳でスノーボードを始め、15歳でプロ資格を取得。わずか17歳で挑んだソルトレイクシティ五輪ハーフパイプでは、特大のアッパーデッキから始まる圧巻のルーティーンで5位入賞を果たす。その後もX-GAMEやトリノ五輪、ワールドカップなど世界中のコンペシーンを転戦。
そのかたわらでスノーボードムービーの撮影も精力的にこなし、今まで出演してきた作品は実に30を越え、そのほとんどが個人パートでの出演。
カナダのプロダクション「ALTERNE FILM」では並みいる外国人ライダーを差し置いて、名誉あるパート「トリ」を獲得。(その時のパートはこちら)
その圧倒的な存在感は日本のみならず海外も認める、まさに中井孝治は日本を代表する「MOVIE STAR」なのだ。
活動の場はバックカントリーへ
トリノ五輪以降はコンテストから距離を置き、以前から興味を持っていたバックカントリーをメインフィールドとして活動をスタートさせる。
年を増すごとに中井はそのフィールドに魅了され、日本のみならずアメリカ、カナダ、ヨーロッパ、チリ、ニュージーランドと一年中パウダーを求めて旅を続け、大会では見られないような、バックカントリーでのクリエイティブな写真や映像を残し続けている。
毎年のジレンマから誕生した「COIF」
ライダーが全力を注ぐ「個人パート」とは
多くのスノーボードムービーは、各ライダーの「個人パート」が合わさり、それがまとまって一つの作品となる。個人パートは、シーズン中に撮影された映像を厳選して20-30カットに絞り込み、編集をして曲を入れ、だいたい3-4分程のパートに仕上がる。
つまりライダー達は、このわずか3,4分の自分のパートのために、その年の撮影に全力を注ぐことになる。カット数が十分に満たなければ、誰かと一緒の「2個1パート」に甘んじることになり、さらに少なければ「FRIENDパート」に使われるか、最悪出演することができない。これが伝統的なスノーボードムービーのセオリーだ。
「フッテージが限定されるのがもったいない」
著者自身もかつてはこの「個人パート」のために奔走していたので、「良質な20カット」の重みは痛い程知っている。その年の自分を象徴する20カットは決して容易に撮れるものではなく、文字通り「全力を注ぐ」必要がある。
中井がCOIFを始めた理由は
「毎年、各ビデオは年に一本しか出ない。当然使われるフッテージは限定され、使われない映像がもったいない」
さすがは中井である。
シーズン中、貯めに貯めた大量の映像フッテージから、自分のパートに使うカットを厳選する中で、やむを得ず「お蔵入り」してしまう映像を、世に披露できる場所として誕生したのが、何よりCOIFだったのだ。
「COIF」を通して表現したい自身の世界観
自由に映像を吐き出せるネットの強み
COIFのサイトを開くと、実に様々なスノーボードのシーンを垣間見ることが出来る。登場してくるライダーも、コンペシーンの第一線で活躍する超一流ライダーから、パウダーを美しく滑る往年のフリーライダーまで多種多様である。
「いつも一緒に滑っているライダーや、普段はあまり大会で見られないライダーまで、自分がカッコいいと思った人の、いいカットがあればバンバン出していきたい」
と中井。
この冬アップされたCOIFのオリジナルムービー「KAMIFU-EXPERIENCE」
中井孝治に植村能成,野々垣瑠を加えた3名により繰り広げられたセッションの模様。
ホームページに映像を露出していく上での最大の強みは、いい映像を、時期を待たずに好きなときに出せること。カット数を貯めて個人パートとして出さなくても、極端な話1カットでもヤバい映像が撮れれば、それだけをフューチャーして更新することも可能なのだ。現にCOIFには「DAY OF THE CLIP」と銘打って、各ライダーの渾身の1カットだけにフォーカスしているコンテンツもある。
自分がやりたいこと、カッコいいと思うことを見てもらう
「自分たちのやっている活動を、映像や写真を通して分かってもらいたい。共感してもらいたい。スキルだけでなく、滑るまでの過程だったり山への向き合い方だったり、自分がカッコいいと思うスノーボード、世界観をちゃんと伝わるように伝えたい」中井孝治は言うまでもなく、誰もがその滑りを見たい超一流のライダー。中井が出ているから、お金を出してでもその作品を買う、なんて人も多くいるはずだ。
ただ、当の中井本人は、決して自分の滑りを出し惜しみしてはいない。むしろその逆で、良質なフッテージを無料で更新し続けることで、自身の思うスノーボードの素晴らしさ、かっこよさを伝えようとしているのだ。
いつだったか中井と温泉に行った時に、ふと冗談まじりに質問を投げたことがあった。
「毎年お蔵入りしている映像や写真を全部集めて、ネットで有料ページ作っちゃえばいいんじゃない?」
するとナカイは、結構真剣にムッとしながら
「そんなことはしたくない」と答えた。
金儲けでなく、自分がやりたいと思うスノーボード、かっこいいと思うスノーボードだけをして、それを見てもらう。その信念を貫いているのが痛い程分かり、それがCOIFの色にもしっかりと出ている。
クラシック×イマジネーション=オリジナルスタイル
そもそもCOIFは
C CLASSIC 王道/昔ながらの
O ORIGINAL 原本 原作 オリジナル
I IMAGINATION 想像力
F FRESH&FUTURE 新鮮 未来
の頭文字を取った造語。
「クラシック×イマジネーション。これらが融合し、新しくてオリジナルなスタイルを作りあげる。そして、それは未来でクラシックなスタイルとして残っていく。」
COIFの揺るぎない信念はそこにある。
「満足はしていないけど、とりあえずやりたいことがスタートできた」
と、一年目を振り返る中井。
今後COIFでは、シーズン中に撮影されたトリップの模様を、編集が終わり次第、随時アップしていくそうで、ゆくゆくはスノーボードブランドとのコラボ商品やアクセサリー製作なんかも視野に入れているんだそう。
日本を代表するスーパースターが始動させたリアルな動画サイト「COIF」。今後の展開が楽しみでならない。